『コロコロコミック』気鋭の編集者が語るヒット漫画の舞台裏──脇 立樹 第1回 読者の共感をつなぐ漫画づくりの思考

2025/06/30

コロコロコミック編集部で、『ブラックチャンネル』『運命の巻戻士』などの連載を手がける編集者・脇 立樹。漫画編集に向き合いつつ、YouTubeチャンネルの立ち上げやNintendo Switch向けアプリの開発など、媒体の枠を越えて子ども読者との接点を設計し続けている。

実は、そのキャリアは「希望外の配属」から始まった。しかし、そこから作家の感情や経験を引き出し、子どもたちに届くかたちへ。主観と共感のあいだを行き来する編集哲学を磨き上げた。第1回では、編集者としてのスタートしたコロコロ配属時代の経験、そして『ブラックチャンネル』『運命の巻戻士』誕生に至る企画思考をひもといていく。

自分の“面白い”を信じ抜く。『コロコロ』で見えた編集のダイナミズム

2011年に小学館に入社して、最初の配属がコロコロコミック編集部でした。就職活動のときは、映画でも漫画でも小説でも、あるいはテレビでも、何かを作る仕事がしたいという思いが強くて。出版社に特別なこだわりがあったというよりは、とにかくコンテンツに携わる仕事がしたかったんです。その中で小学館に入社しました。

ただ、希望していたのは青年漫画誌でした。当時の自分にとって身近な「大人が面白がる作品」を作りたかったんです。だから、配属が『コロコロ』だと聞いたときは、正直、「……」という感じで、最悪な気持ちになったのを覚えています(笑)。

そうですね……子ども向けだからというよりは、自分が「これ面白い!」と思えるものを、そのまま形にできないんじゃないか。そんな不安があったんだと思います。でも、それは完全に杞憂でした。

たとえば、『ゾイド』の新しい企画に関わったとき、タカラトミーの担当の方が試作品のモックを見せてくれました。それがすごく“エヴァ(ンゲリオン)”っぽかった。キモかっこいい、というか。大人の目から見てもテンションが上がるようなデザインだったんです。

※猛獣や恐竜などをモチーフに、内蔵の動力ユニットで駆動するタカラトミーの組み立て式玩具。1982年の発売以来、40年以上に亘るロングセラーシリーズ。

『コロコロ』って、おもちゃやゲームと連動した企画が多いんですけど、だからといってメーカーの意向に100%沿うわけではなくて。

作家さんと一緒にホビーのキャラクターストーリーを作って、そこに連動した売れる商品をプロデュースするという感じです。

「この切り口は漫画だと映える」とか、「アニメでこの展開にしたら子どもにウケるんじゃないか」とか、漫画編集者ならではの提案が生きる。自分の感覚が、ちゃんと届く。それはすごく楽しいですね。

自分自身がプロダクトに夢中になるというか、面白がれないと、子どもにも伝わらないと思うんです。『ゾイド』の新シリーズやアニメ企画に携わる中で『コロコロの仕事、楽しいかも』とはじめて思えました。入社して3~4年目ぐらいのことでしたね。

届けるかたちを探して──作者と読者のあいだで企画をつくる

作者のきさいちさとし先生と話していると、小学生の頃に感じた“悔しかったこと”や“許せなかったこと”みたいなエピソードを、すごく鮮明に覚えていらっしゃった。企画を煮詰めていく際に話していて、このとても暗い“あるある”をうまく漫画にできたら面白いな、と思ったんです。とはいえ、そのまま描いたら重たすぎるし、読者が入りにくくなってしまう……。そこで「悪魔のYouTuberが人間の本性を暴いていく」設定にして、内容はちょっとブラックでもYouTubeという圧倒的にキャッチーな要素を中心にすえて子どもたちが自然と入っていけるように工夫しました。

つまり、誰しも小学生時代に抱くようなネガティブな感情を、どうやって“かっこよく”届けられる形に変換できるか、という出発点から連載の方向性を考えました。

そうですね、主人公・クロノは、何度も何度も時間を巻き戻しては、運命を変えようと挑戦し続ける。失敗しても、決して諦めないキャラクターです。

キャラクター造形に関しては、作者の木村風太先生は、すごくまっすぐで誠実な方で、この人が描く主人公は、かくあるべきじゃないか、と思ったことが大きいです。そして、僕自身が当時韓国ドラマの『梨泰院クラス』にハマっていたのも影響しましたね。困っている人がいたら迷わず助ける、そんな姿が、当時の僕には新鮮に映ったんです。

その当時の日本のドラマや漫画ではあまり見かけない、ある意味で古風なキャラクターですよね。連載がスタートしたのは2022年ですが、当時の少年漫画では、内面に闇を抱えていたり、斜に構えた主人公像が多かった印象があります。ストレートで誠実な主人公は、むしろ珍しかった。

「逆張り」ではありませんが、韓国エンターテインメントが打ち出していたキャラクターと、少年漫画シーンでのレア度、そして作家の人柄、こうしたいくつかの要素が重なって、キャラクターの方向性が自然に定まっていったように感じます。

これ面白い!から始まる編集─好きの感覚をアウトプットする

まず大前提として、作家さんあっての作品ですから、前述のように、その人のコアな部分を引き出すことがすごく大事だと思っています。それがなければ、どんなに編集者が考え尽くしても面白くはならないと感じています。

そのうえで、編集者である自分の“主観”が反映されることを考えます。『運命の巻戻士』について言えば、自分が好きなループ系作品が『コロコロ』でも成立するかどうか、考えていましたが、ループものは構造が複雑ですから、子どもには難しいジャンルだと思われがちです。だからこそ簡単に読める形にしたら新鮮なのではと思い、やってみました。

作家さんが持っている感情や体験の芯をしっかり引き出して、どう見せるか──そこを一緒に考えていくのが編集者の役割なので「割合」は作品ごとに濃淡があると思います。

僕は業務の一貫として「調べて、観る」のが苦手で……(笑)。本当に好きなものしか観ないタイプです。最近だと、Netflixオリジナルドラマの『ハウス・オブ・カード』をずっと観ていて。アメリカの政治の裏側、汚職、駆け引き、スキャンダル、メディア操作など、リアルな政治のダークサイドを徹底的に描写した政治モノなので、今の仕事に直接つながるわけではないんですが、こういったテーマを『コロコロ』でやるとしたら? といったことは少し考えたりもします。全然思いつきませんが…(笑)

もちろん、漫画は昔からずっと好きで、『AKIRA』には本当に衝撃を受けましたし、『ドラゴンボール』や『スラムダンク』は普通にめちゃくちゃ好きでした。青年誌なら浦沢直樹先生や新井英樹先生の漫画には惹かれましたね。新井先生の『ザ・ワールド・イズ・マイン』は、就活中に何度も読み返しました。全体として、自分の好みには熱さとか、衝動みたいなものが一貫してある気がします。そういう作品に触れると、自然と引き込まれてしまいますね。

やっぱり、自分が“これ面白いな”って思えないと、続けられないです。大人のその感覚をただ“面白い”ままにしておくんじゃなくて、子どもたちに届くかたちに整えて、ちゃんと伝わると楽しいです。わかりやすくできないと子どもは読めないので。

その意味では、おもちゃやゲームをただそのまま見せるのではなく、編集側の“主観”を落とし込む経験が役に立っていると感じています。

てんとう虫コミックス
『ブラックチャンネル』
作/きさいちさとし

1~12巻発売中(以下続刊)
https://shogakukan-comic.jp/book?isbn=9784091432643

てんとう虫コミックス
『運命の巻戻士』
作/木村風太

1~9巻発売中(以下続刊)
https://shogakukan-comic.jp/book?isbn=9784091433992

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