令和の子供たちの趣味嗜好を広く調べ直して他社との共創に繋げていきます。『てれびくん』石井崇規編集長インタビュー
2024/05/10
子供たちに毎号厳しいジャッジを下されていると思っているので気が抜けません
石井崇規編集長は2000年、小学館に入社。『ドマーニ』に配属され、その後、雑誌販売、『週刊ポスト』を経て、2006年から『コロコロコミック』、2008年に『小学一年生』と、児童誌でキャリアを重ね、2013年に『てれびくん』に異動。2024年2月より『てれびくん』編集長に。
世の中が多様化しているように親と子の価値観や求めているものも変化
まずは、編集長就任の意気込みを教えてください。
「やりがいを感じています。『てれびくん』は1976年の創刊なんですね。僕は1975年生まれで同世代です。当時の記憶はそこまでありませんが、『小学一年生』を読み始める前の4、5歳の頃に『てれびくん』を読んでいました。その『てれびくん』に11年前から編集者として携わり、毎号作り上げていき、そして今、編集長という責任ある立場で現場の指揮を執らせていただいている。こんなうれしいことはありませんし、責任感をもやりがいにして楽しんでいるところです」
読者層は昔と比べて変わってきていますか。
「変化してきていますね。異動してきた時は『てれびくん』は幼稚園児のものだと思っていました。小学校に入学したら自然に『てれびくん』は卒業するものだと。写真のセレクトであったり、ヒーローの情報を載せる場合でも、幼稚園に通う元気な特撮好きの男の子たちの好みそうなものを想像しながら作っていました。でも、世の中の多様化が進んだように、『てれびくん』も小学校に入学する年齢になったから卒業する、といった簡単な線引きではなくなってきています。
例えば、仮面ライダーが好きな男の子は、そのまま小学2年生、3年生になっても仮面ライダーの情報などを得たくて愛読してくれています。リアルな読者層となると、幼稚園児が中心なのは変わりありませんが、小学生になってからも読み続けてくれている長期的な読者もいるので、年齢層は若干上がってきています」
今の親御さんたちの意識の変化もあると思います。ヒーローたちに理解があり、子供が小学生になって『てれびくん』を楽しんでいても気にならないのかもしれません。
「親御さんたちも自分が子供の頃、特にお父さんたちは仮面ライダーやスーパー戦隊、ウルトラマン・シリーズに熱中していたでしょうから。それが年月の流れとともにヒーローものから離れていき、やがて子供ができ、その子がヒーロー番組を見始めると、再びヒーローが好きだった自分を思い出す。『へぇ、令和の仮面ライダーはこんなに凄いのか』って、子供と一緒に『てれびくん』を楽しんでくれている親御さんも多いと思いますね。お母さんにしても、ライダーに変身するイケメン俳優に興味があったり。
それは『てれびくん』に限らず、特撮ヒーローの世界全般にもいえることだと思います。そもそも子供は親をよく見ています。親が好きなものというのは、子供の安心感に繋がっているんですね。お父さんが仮面ライダーを好きだから、ボクも好きでいていいんだ、これからも応援してもいいんだという。親と子の信頼関係は『てれびくん』にとっても心強いですね。逆に、親が禁じているものを見てみたい、体験してみたいと思うのは、子供がもっと成長した先の話だと思います」
『てれびくん』が創刊された1976年当時の子供たちが求めていたヒーロー像と、令和の子供たちが求めているヒーロー像に違いはあるのでしょうか。
「基本変わってはいないと思います。強い者、カッコいい者に憧れを抱くのは男の子の本能みたいなもの。それは今後も変わらないでしょう。だからこそ、ヒーローは絶対に強い存在でなければいけないんです。弱々しいヒーローなんか子供たちは求めていません。
ただ、昔よりもチェックが厳しくなっているようには感じます。新登場のヒーローに対し、こいつは本当に世界を救えるのか、みたいな。世界を守る覚悟を持っているのかと探っています。敵を倒すにしても、そこに苦しみや悩みはあるのか、仲間を引き入れるだけのカリスマ性を秘めているか、そういった深い部分まで見ているんですよね。もし、自分がそのヒーローに納得できない感情を抱くと、このヒーローは合わない、違うと判断し、作品から離れていきます。
逆の見方をすると、大人目線では本当にこれはかっこいいのかな? という感じのヒーローであっても、戦うことへの前向きな動機や、仲間を想う気持ちがストレートに伝わってくれば、子供たちはそのヒーローを応援します。ライバルや敵役も同じで、子供たちの目から見て彼らの中にちゃんと悪は悪なりの筋が通っていたら、人気が出るんですよ。昔のようにヒーローは意味も無く強いだけ、そして敵は闇雲に街を破壊していくような単純な構図は、今の子供たちには受け入れてもらうのは厳しい気がします。もちろんこれはヒーロー雑誌を作っている我々にもあてはまります。子供たちに毎号毎号厳しいジャッジを下されていると思っているので、一瞬たりとも気が抜けません(笑)」
『てれびくん』は、そういった子供たちにヒーローの世界観をより深く掘り下げる準備段階として常に最新情報を載せています。
「その点も今後は考えていかなければいけないでしょう。以前は、どこよりも早く、次はこんな仮面ライダーが登場する、こんなに凄いスーパー戦隊の物語が始まるといった最新情報が重宝され、支持されていたと思うんです。それがネットやSNSが普及した今では、必ずしもそこに有利性があるとは限りません。そうすると、このヒーローにはこんな秘密があるといった、物語の少し前に戻って掘り下げていくような記事も重要になっています。最近の『てれびくん』では変身アイテム等のカタログページの人気があります。これも一種のふりかえり記事ですよね。
最新情報を掲載していくのも大切ですが、同時に物語の世界観をより広げていく、例えばテレビで見逃してしまったシーンを、もう一度見直してみたくなるような誌面作りも『てれびくん』の使命のひとつになってきているのではないでしょうか」
子供が本当に好きなもの、興味のあることを調べてデータ化
『てれびくん』のお楽しみといえば、アイデア満載の豪華付録。子供たちは毎号ドキドキワクワクしているのですが、この付録も今後は変化していくのでしょうか。
「どうも数年前から、親御さんたちの意見として組み立て式の付録は作りづらいみたいな声が上がってきてはいます。僕自身、組み立てが大好きなので、いくらでも複雑なものを付録として付けることはできるんですが〝作るのが大変だ〟といった声が確かにあるものですから、もっと簡単に作れるものを日々考えています。4・5月号ではスーパー戦隊の新シリーズ『爆上戦隊ブンブンジャー』のお面を付けていますが、簡単に作れるものです。
ただ、簡単にすることだけが正解だとは思っていません。他の号では遊べるカードが入っていたり、シールやトランプがあって盛りだくさんです。割と簡単に作ることができて、しかもあっと驚くようなギミックの付録を日々考えています。ぜひ楽しみに待っていただけると嬉しいです」
『てれびくん』は子供たちの好みや求めているものの変化に遅れることなく常に半歩先を目指すために、子供たちが喜ぶ情報や創作意欲を刺激する付録を作り上げようと変化を続けていることが理解できました。
「『てれびくん』に携わって11年目。経験は積み重ねてきましたが、ちょっと心配なのが頭の中の柔軟性が少しずつ失われ、固定観念にとらわれているかもしれない。ですので、このタイミングでリアルな読者のお子様のアンケートを実施しています。本当に子供が好きなもの、興味のあることを1年間ぐらいかけて調べて、編集部でデータ化していく予定です。
加えて、子供たちのリアルな一日、日々の生活にもスポットをあてていきたいと思っています。具体的には、洋服の好みだとか、食事のおかずでは何が好きか、どんな飲み物を飲んでいるか、おやつは何をどれくらい食べるのか、外食の頻度など。子供たちの生活に関わることも丁寧に調査してみたいですね。それらを踏まえて企業さんと連携したり、共創できれば新しい展開が見えてくるのではないでしょうか。
例えば、食品会社さんに対し、こういったお菓子であれば『てれびくん』の読者に自信を持って勧められますと提案できたり。その商品にサポートという形で『てれびくん』の文字やロゴも入れられると思いますし。子供向けの食品に力を入れたい企業さんが協力してほしいとの要望があれば、どうすれば子供たちに認知してもらえるか編集部でアイデアを出したり、そのアイデアを企業さんのほうでさらに大きく膨らませることもできると思うんです。運動靴にしても〝これを履けば、キミはヒーローになれる〟のようなコピーをとっかかりにして、本当に速く走れるようになったのかをメーカーさんと編集部で実験し、それを誌面で展開していくなんてこともあり得ると思うんですよね。
企業側からすると、そういう企画の展開は敷居が高いと思っていらっしゃるかもしれませんが、そんなことは全くないです。アイデア次第で思わぬ成果を上げることができ、子供たちが喜ぶものを作れるのではなかと思っています。そういった広がりは大好きですし、お声掛けしていただければ、僕たちはどんどん動きます!」
石井編集長の趣味は歴史小説を読むこと。最近は司馬遼太郎や吉川英治の作品を読み返しているそうです。そこで改めて気づいたのは、坂本龍馬なども歴史を彩るヒーローのひとりだったということ。ただ、今は脇役の存在にも心魅かれているようで、それはヒーローとして輝く主人公も好きだけど、筋を通した生き方を貫いている脇役や敵役にも熱い視線を送っている、今の子供たちと同じように感じられます。石井編集長は子供たちと同じ視線でヒーローたちを見つめ、『てれびくん』を進化させていきます。
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