コロコロコミックが初のゲーム制作! 『カブトクワガタ』特大ヒットの裏側

2023/08/30

コロコロブランドのゲームで、子どもたちを熱狂させるブームを作りたい

『コロコロコミック』編集部が初めて手がけたゲーム『カブトクワガタ』。2023年3月15日にNintendo Switch用のダウンロード専売ソフトとして発売され、2週間でセール部門の売上ランキング1位を獲得、総合売上でも4位に入る大ヒットとなりました。公式Twitterは開設から3週間で1万フォロワーを獲得し、発売日にはトレンド入り。YouTubeの関連動画は200万再生を記録し、視聴回数が急伸した「急上昇リスト」入りするなど、ネット上でも大きな話題に。このヒットゲームを生み出した背景について、担当者の小林浩一副編集長に語ってもらいました。

コロコロオンライン内の『週刊コロコロコミック』で連載中の、ゲーム開発を題材とする漫画「ゲーつくっ!!」との完全連動企画として制作されたタイトル

ゲームでの体験をその子の世界を広げるきっかけに

「人気ゲームを自分たちの手で作り出す」という大きな目標を掲げたコロゲープロジェクトは、小学館創立100周年、コロコロ創刊45周年に合わせて2021年秋にスタート。100年企業の伝統を大切にしつつ、何か新しいことをやっていくのが、小学館でありコロコロだという思いから、これまでにない挑戦をしてみようと決めたことが契機でした。

「いくつか案が出た中で、自分たちの手で『ポケットモンスター』のような大ヒットゲームが作れたらすばらしいんじゃないかと、ゲーム制作を選定しました。子どもとゲームというのは切っても切れなくて、読者アンケートの「将来なりたい職業」はゲームクリエイターが常に上位。ユーチューバーも上位ですが、YouTubeで今とくに人気なのがゲーム実況です。コロコロは古くから誌面でゲームを取り上げ、そこから派生して漫画もたくさん作っています。編集部にはゲーム会社から『こんなゲームを作ろうと思うんですけど、どうでしょう?』という相談がきたりもするんですよ。ゲームをただ取り上げるメディアではなく、共にゲームを作るというスタンスがあるのが独特で、これまでのノウハウの蓄積もあります」

『ポケットモンスター』や『妖怪ウォッチ』といったゲームを大ヒットに導いてきたコロコロ編集部。ゲームが子どもから大人まで世界中でプレイされ、世界標準で作られるメジャーゲームが多い中、目指したのは、日本の子どもたちを元気にする、子ども本位のゲームです。

「ゲーム市場は今や売上規模がとんでもなく大きい一大産業。新規のゲーム開発は、全世界をターゲットに1千億円売り上げよ、という大きな話になるんですよ。そうすると、いくら子どもたちの興味をひくテーマだといっても、昆虫のゲームでは1千億円の売上規模に絶対に届かない。カブトムシやクワガタムシの人気がないアメリカでもヨーロッパでも市場が取れません。そんなわけで全世界的に共通する戦闘もの、わかりやすいバトルロイヤル形式の撃ち合いゲームなどがゲームの主流になるんです。でも今その反動として、低予算のインディーゲームが盛り上がっています。我々もインディーの枠でやれば、ニッチなんだけれども、子どたたちには刺さるものができるんじゃないかと」

リアルに再現したモデリングは眺めているだけでも十分楽しい。それぞれのムシのデータは『図鑑NEO』が監修した

『カブトクワガタ』のゲーム制作を取り仕切ったのは、2000年代前半に大ブームを巻き起こしたアーケード用の昆虫カードゲーム開発者の植村比呂志氏。コロコロとは、その頃からの信頼関係があったことが、今回の依頼に繋がりました。

「カードゲームで遊んでいた子どもたちは今20代半ばくらい。大ヒットから1周した感があり、もちろん昆虫は普遍的なテーマですが、周期的にもいいタイミングだろうと思いました」

『カブトクワガタ』は虫を戦わせるバトルに加え、オスとメスをつがわせ、より強い個体を誕生させる育成要素がゲームの柱になっているのが大きな特徴。またゲーム内に図鑑コーナーがあり、小学館の『図鑑NEO』監修のデータが入っているのもポイントで、『図鑑NEO』の信頼性の高さが、ゲームを子どもに買い与える保護者へのアピールにもなっています。

「本当は虫に直接触れてほしいと思っているんですよ。人間以外の生き物がいることを、触れ合う体験で実感するのが一番いいと思っています。ですが、虫にあまり興味のない子や虫を触れない子もいて、ゲームでそのきっかけ作りができればいいなと。昆虫カードゲームがブームの頃は、コーカサスオオカブトとかマンディブラリスフタマタクワガタとか、そういう言葉が子どもたちの間でポンポン出てきたらしいんですけど、今の子どもって虫のことを意外に知らないんですよ。アンケートで「どんな虫が好きですか?」って聞いたら、ダンゴムシとかアリとかが上位。虫を捕まえて学校に持って行くという課題みたいなのがあるそうで、その一番人気がダンゴムシだと。ダンゴムシなら公園にいるし、捕まえやすいからなんでしょう」

そんな子どもたちに、ゲームをきっかけに、世界を広げていってもらいたいとのこと。

「育成要素を重視しているのは、そこから興味を広げてもらいたいからですし、交尾シーンを入れているのもそう。カブトムシだってコウノトリが子どもを運んでくるわけではなく、オスとメスがいて交尾して、種の保存になっていることを実感してもらいたい。ゲームは擬似体験かもしれませんが、まずは難しいことを言わずにエンタメ全開で、この虫かっこいいなとか、バトルがおもしろいなと思ってもらう。それで虫に興味を持ったら、ゲームで終わらないで、たとえば『図鑑NEO』を開いて、この虫にはこんな特徴があるんだとか、こんなところに生息しているんだなと見てもらいたい。すると世界がどんどん広がっていく。ゲームがその子の世界を広げる入り口になったらいいなと思っています」

「昆虫カードゲームの大ヒットから1周した感があり、周期的にもいいタイミングだろうと思った」と語る『コロコロコミック』小林浩一副編集長

YouTube動画を活用したプロモーションで注目度をアップ

近年YouTubeに力をいれ、登録者を戦略的に増やしているコロコロ。『カブトクワガタ』のプロモーションにおいても動画を積極的に活用したことが、ヒットの要因となりました。

「もちろんコロコロの誌面で関連記事を作り、漫画を作りということをしながらも、それで完結していいのかというと、そうではない。今の子どもの生活にはあたり前にデジタルが入っている。その接点が強固なのはやはりYouTubeです。もともとコロコロがYouTubeに力を入れているのはそうした理由からで、今回のプロモーションでも動画は外せない要素でした。僕は一時期、小学館が株主になっているデジタルベンチャー会社に出向していたんですが、そのときの経験を活かして編集部内に『動画チーム』を作ったんです。チームには、コロコロがやろうとしていることに共感して集まってくれたフリーランスのクリエイターや美大生など16名ほどが登録しており、ネットで話題になった『カブトクワガタ』のCM動画も彼らの手によるものです」

ゲーム本体に対する話題もまた、ネットで大きく盛り上がりました。『カブトクワガタ』はまだ字が読めない子どものために、YouTubeでよく利用されている機械の合成音声による文字の読み上げ機能を装備し、低年齢層でも気軽に遊べるようシンプルなシステムを搭載。それらに対し、当初Twitter上に多く挙がったのは、タイトルからスタッフクレジットまで全て読み上げる必要があるのかなどといった否定的な声でした。

「Twitter上に様々な声が挙がるのは致し方ないことですが、賛否両論どころか否定ばかりが目について、かなり過激なことも言われ、担当者としては焦りました(笑)。でも否定的に騒がれたことで、いや、そうじゃないと言ってくれる人もたくさん出てきたんです。例えば、全盲のプログラマーの方が『全盲でも遊べるこのゲームは、日本のアクセスシビリティの革命だ』と絶賛してくれたり、YouTubeでゲーム実況を配信している人が、虫のクオリティが抜群だとか、実際にやってみたらよくできているゲームだと言ってくれたり。そういう意見が出て過激な声がおさまり、否定が肯定に反転しました。今は実際にゲームをしていなくても、ゲーム実況などを見て何だかんだと言えてしまう世の中。そこがいいところでもあり困ったところでもありますが、そのことをチャンスと捉えれば、ゲームをやっていない人にもリーチできるし、話題になったことで注目されて売れるというメリットもあります」

一方、ゲームの第1ターゲットである子どもたちからの反響はよく、2023年6月に東京ビッグサイトで開催した「コロコロ魂フェスティバル」での試遊も大好評でした。

「コロコロはイベントを得意としているんですが、フェスティバルには2日間で5万人の来場者がありました。『カブトクワガタ』の試遊コーナーは人気が高く、連日長蛇の列ができていましたし、遊んでいる子どもたちの表情からもいい反応が伝わってきて、嬉しかったですね。いろんな声があっても、とにかく子どもたちを熱狂させることを第一に考えるのが、〝青臭い〟小学館らしいところかもしれません」

また、ダウンロードできる環境にない子どもたちの声に応え、パッケージ版の発売も決定。2023年11月15日にNintendoから発売予定で、ゲームのさらなる売れ行きが見込まれます。

「パッケージ版には付録として、『図鑑NEO』のミニ版のようなものをつけることを考えています。そうすれば『図鑑NEO』のデータを基にしていることが一目でわかり、保護者が子どもにゲームをより買ってあげやすくなりますし、ゲームを入り口に世界を広げていってほしいという、こちらの意図も伝わりやすくなるかなと思います」

11月15日にはNintendoからパッケージ版も発売決定。同封特典として、『図鑑NEO』の特別編集版「カブトムシ・クワガタムシ」が付く

漫画を作るようにゲームを制作すれば、いいものができる

今回、ゲームを作ったことは、編集部にとっても大きなプラスになったと小林副編集長。

「僕が担当者だから思っていることかもしれないですけど、仮説がちゃんと合っていたなと。その仮説は何かというと、おそらく編集者の仕事とは才能のある人を集めてくることで、漫画を作る場合でも漫画家さんの才能を引き出すことが仕事ですが、編集者が漫画家に寄り添うようにゲームクリエイターと二人三脚でゲームを作ったら、いいものができるんじゃないかというものです。結果としてそれが成功したことは、編集部としてすごい自信になりました。またゲームクリエイター側にしても、目指せ売上1千億円という今のゲームの世界で、コロコロという子どもへの影響がとても大きいメディアで、自分が作りたいゲームが作れたというのは、かなりインパクトが大きかったんじゃないかなと思います」

コロゲープロジェクトからは『みんなで空気読み』というゲームも生まれ、現在も企画は続行中。今後、才能あるクリエイターがプロジェクトに集まってくる可能性は高いといえます。

「1千億円稼ぐゲームというのは制作に何百億円かけてもおかしくない。小学館ではとてもそんなお金のかけ方はできませんが、お金がないからできないではなく、お金のない中でどうやったらできるかを考える。そういう意味で『カブトクワガタ』を作れたのは結構エポックメイキングなことじゃないかと思います。1年で売り切りというゲームが多い中、『カブトクワガタ』は追加できるダウンロードコンテンツを増やしたり、バージョンアップしたりして、2年目3年目でも売り伸ばしていく定番みたいなゲームに育てたいですね。コロゲープロジェクトで新たなゲームをどんどん出してもいきたいですし、この流れで小学館やコロコロコミックのゲームブランドができたらすごくいいなと思っています」

出版社によるゲーム制作という、新たな取り組みを成功させたコロコロ編集部。今後のさらなる展開にどうぞご期待ください。

「虫に興味を持ったらゲームで終わらないで、『図鑑NEO』を開いて、この虫にはこんな特徴があるんだとか、こんなところに生息しているんだなと見てもらいたい。ゲームがその子の世界を広げる入り口になったらいいなと思っています」

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