暮らしのなかに、日本文化や伝統美術の奥深さを取り入れて、豊かな生き方を提案していきます。『和樂』高橋木綿子編集長インタビュー
2023/01/11
「日本の美」と「知る喜び」で、心豊かな暮らしを応援したい!
小学館での編集者生活は、マタニティ誌『P.and』からスタート。出産直後の女性を取材するなど、喜びの現場に立ち会ってきました。その後、母と子のファッション誌『Oyako』、女性実用誌『マフィン』、働く女性を応援するファッション誌『Domani』、ラグジュアリー誌『Precious』、『和樂』に配属。女性のライフステージをたどるように、雑誌づくりを経験してきました。2014年には『Precious』編集長に、20年には「美的ブランド室」室長に就任。『和樂』には22年10月、10年ぶりに編集長として戻ってきました。
7割は女性だが、潜在的読者は幅広い
2001年に創刊した『和樂』。「美の国ニッポンをもっと知る!」をテーマに、日本美術、伝統工芸、茶の湯、古都の旅の魅力などを特集。根強いファンを増やしてきました。コロナ禍で明暗を分ける雑誌の世界において、『和樂』は実売率70~80%で、部数を伸ばすなど絶好調。特に、美術作品の一部を原寸大で紹介し、専門家が解説する「〝原寸〟美術館」は大人気です。
「コロナ禍、誌上で美術を鑑賞することに価値を見出してくださる方が増えているように感じます。たとえば、伊藤若冲の原寸大は、筆遣いの細部まで鑑賞でき、実際に美術館を訪ねての鑑賞では味わえない魅力になっています。コロナによって不自由さを経験したからこそ、美しいものを鑑賞し、さらに背景や歴史を知って、心を豊かにしたいという欲求がいっそう強くなったのではないでしょうか。私自身、一読者として、毎号、学ぶことが多く、知ることの喜びを感じています」
読者層は、女性が7割を占め、50代から70代までのオトナ世代が中心。美術や文化に関心が高く、自立し、自分でモノを買う富裕層が多くを占めています。
「私が長くかかわってきた『Precious』では日常的に身に着ける上質なコスメやファッションを紹介してきましたが、『和樂』は知らなかったことを学ぶなど、心に〝身に着ける〟ものを扱っていきます。読者は女性が大半を占めていますが、『和樂』はパートナーと一緒に読める数少ない雑誌で、男性の読者も潜在的に多いのです。また、仕事で海外の方とおつきあいのある女性読者も多く、海外の方に、日本文化をしっかりと説明できるだけの知識をもちたいという方も。日本在住の外国の方には、本当に『和樂』大好きな方が多いですね。最近は、美術を学ぶ大学生などにも読まれていると聞きました。潜在的な読者層はとても幅広いのです」
読者の地域的な分布も、都市部だけでなく、日本全国に広がっているのも『和樂』の特徴です。
「日本には京都や奈良などの古都だけでなく、全国各地に文化があり、伝統工芸や伝統技術を支える職人さんがいます。一般の方の暮らしにも、その美意識が広がっています。今後は、そうした地域文化にクローズアップして、もっと伝えていけたらいいですね」
従来のラグジュアリー路線を進めながら、ライフステージに合った美容やインテリアの提案も
『和樂』では毎号、「いちばん好きなお寺」「行きたい美術館」「泊まりたい宿」などの読者アンケートを参考にしながら、撮影場所やアートを借りて、タイアップ企画にしてきました。ハイジュエリー、ラグジュアリーウォッチ、オートクチュールなどは読者に好評。美術展とジュエリーのタイアップコラボは、本誌企画だけでなく、オウンドメディアでも紹介され、好評を博しました。また、若冲のビッグトートバッグやカレンダーなどの付録も「持って歩ける日本美術」「毎日使える日本美術」ということで人気を呼んでいます。
「今後も、ラグジュアリー路線を進めていきながら、同時に、これまであまりなかった『和樂』世代の女性に向けての美術館カジュアル、観劇ワンピースなどのファッションを提案していきたいと思っています。また、同年代の人からお手本にしたいと支持されている美容評論家の方に美容道を指南してもらい、どんな化粧品を使えばいいのか、といった情報も展開していきたいですね。建築や住まいの美にも関心が高く、古民家リノベーションをしているハウスメーカーや高級家電などの情報も、タイアップ企画の可能性を探っています」
リアルイベントとしては、コロナ前に「贔屓の会」を開催。状況を見ながら、再開も考えています。
「『贔屓の会』は、定期購読者と希望者の少人数で、ふだんは入れないようなところにお連れして、専門家の方から日本美術のお話を聞けるという特別感のあるイベント。コロナ前は2か月に1回程度開いていました。読者の方の声を直接聞く機会にもなり、美術と相性のいいジュエリーや高級化粧品などをご紹介するいい機会でした。現在も、白洲次郎・正子夫妻の長女・牧山桂子さんに『武相荘のたからもの』という連載をいただいているので、そうしたご縁をつないで、リアルイベントを再開できるようになるといいなと思っています」
創刊21年を迎え、『和樂』の美意識というものが浸透してきています。『和樂』ならではの視点で、生活に取り入れやすい「美しい和」の提案も思案中です。
「盆栽を飾ったり、お香を焚いてみたり、日本酒などを蔵元から取り寄せて、お気に入りの器で飲んだり。コロナを経験して、日常のなかで美しいものを楽しむという意識が広がっています。今後は、『旅和樂』『家和樂』『ドライブ和樂』『おとりよせ和樂』・・・・・・など、『和樂』目線で選んだ、生活に取り入れやすい〝美〟を、ムックに近い形で展開できると楽しいですね」
小学館の他の媒体との連携も進めています。
「『Precious』『AdvancedTime』『和樂』は、読者層が近い、小学館ラグジュアリーメディア群という位置づけです。共同で読者イベントを開催するなど、連動した企画ができるといいなと思っています。同じファッションでも『Precious』世代や『和樂』世代に合った着こなしを、それぞれ提案し、さらに発行部数の多いタブロイド誌の『AdvancedTime』で、地域を絞って配布することで、より効果的な展開が期待できます。『和樂web』も来春リニューアルし、『Precious』や『AdvancedTime』のサイトに飛びやすくするなど、より連携を深めていきたいですね」
中学生のころから「雑誌が大好きで、いつか雑誌の編集をしたい」と思ってきた高橋編集長。夢が実現し、目下の楽しみの一つはお酒。蒸留酒が好きで、焼酎なら芋派だとか。暮らしのなかに、日本文化や伝統美術の奥深さを取り入れて、豊かな生き方を提案していきます。
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