『コロコロコミック』気鋭の編集者が語るヒット漫画の舞台裏──脇 立樹 第2回 動画×読者接点を設計する、メディアミックス展開の編集力

2025/07/07

連載開始と同時にYouTubeチャンネルも立ち上げ、紙と動画がパラレルに展開されたヒット作『ブラックチャンネル』。その成功の裏には、担当編集・脇による、コロコロ編集部としても前例のない挑戦があった。

動画は漫画の届け方を拡張するだけでなく、新たな読者層との接点を生み出す装置となる。立ち上げたチャンネルが登録者100万人というマイルストーンを突破した今も、脇は「紙か動画か」ではなく、「読者に届くかどうか」を軸に設計を続けている。

第2回では、読者にコンテンツを届ける手段の変化と、編集者としての関わり方の進化をたどっていく。

動画で読ませる──紙の外で作品を届ける編集

『ブラックチャンネル』『運命の巻戻士』のYouTubeアニメチャンネルの運営を担当しています。動画の配信サイクルはかなり速くて『ブラックチャンネル』が2日に1本、『運命の巻戻士』は毎週火・金。感覚的には、ほぼ毎日、新作を出している感覚です。まさに“鬼ヤバ”ですよね(笑)。

自分の関わりとしては、協業している制作会社から定期的に企画書が届くので、それに目を通して内容を確認したり、完成した動画をチェックして修正指示を出したり。漫画の校了に近いですが『コロコロ』は月刊誌ですから、YouTubeの更新ペースは比較にならないくらい速いです。

とはいえ、もう5年近く続けているので、編集部の意図やNGラインも制作会社の担当と共有できていて大きなズレや修正は少なくなっているので、継続の強みを感じますね。

先日、2025年4月に登録者数が100万を突破した『ブラックチャンネル』に関しては、これまでに1700本近くの動画をアップしています。連載開始とほぼ同時に立ち上げたチャンネルで、当時としてはかなり異例の試みでした。そもそも、連載漫画とYouTube動画を同時に走らせるのは前例がなかったんです。

座組みや契約の仕方も含めてすべてが初めてで、編集部内だけでなく社内の理解も不可欠でした。今振り返っても、当時の編集長が「やろう!」と判断し、後押ししてくれたのは本当に大きかった。感謝しています。

スタートダッシュはかなり良かったです。今よりもYouTubeの競争が激しくなく、勝ちやすかった。いわゆる「先行者利益」があったと思います。漫画と連動した個別のYouTubeチャンネルを立ち上げるという動きは出版社でもまだ珍しかったですし。そういった意味でも、新しい試みとしての意義は大きかったと思います。

幕の内弁当から一点突破へ。スピンオフが成功するチャンネル設計とは

もともとは『コロコロチャンネル』という、編集部ポータルな総合チャンネルに漫画、『ベイブレード』などのホビー、ゲーム、すべての企画を一つにまとめていたんです。

でも、YouTubeのアルゴリズムが進化して、いろいろ入りの幕の内弁当型チャンネルは視聴されにくくなってきたんです。

そこで始めたのが、『ブラックチャンネル』など作品ごとの専門チャンネルです。以後、『絶体絶命でんぢゃらすじ~さん』『リッチ警官 キャッシュ!』『運命の巻戻士』など、個別展開の作品を増やしてきました。

一つは、子どもたちが本当にYouTubeを見ていたというエビデンス、そして体感ですね。雑誌の影響力が以前ほど強くなくなってきている中で、動画という窓口はとても有効だと感じました。無料で見られることも、子どもとの親和性が高いと考えています。紙の雑誌って500円以上はするので、お小遣いが限られている小学生にとって、やっぱりちょっとしたハードルになります。

子ども向けオリジナルIPは、テレビアニメ化が簡単ではありません。配信会社の需要が大人向け作品に集中しているため、マネタイズの壁が高くて、テレビ局に企画を通すのもハードルがある。でもYouTubeならテレビアニメと比べて制作コストもかなり抑えられるので低コストで展開できるし、ある程度自分たちでコントロールもできる。だからこそ、動画展開がテレビアニメの手前の一つの宣伝活動になり得る、という考えです。

アニメ化の難しい時代に、YouTubeで作品を広げていくのはとても意味があることだと思います。実際、『ブラックチャンネル』や『運命の巻戻士』は、他のオリジナル作品と比べてもコミックスのセールスが好調です。YouTubeを通した認知効果は今もとても大きいと感じています。

YouTubeチャンネル単体で見たときに「しっかり収益化できている」とまでは言い切れないですが、アドセンスの広告収入や、スポンサー付きの案件動画といった仕組みがあります。コミックスの増売なども含めてトータルで見ればトントンくらいにはなっています。もちろん、編集部にとっても、他の作品も含めてここが新しい起点になる可能性がある。コロコロ読者以外にリーチが広がるわけで、ここには大きな期待があります。

「コロコロらしさ」を再構築。動画から新たな表現を考えていく

『ブラックチャンネル』ファンの中心は子どもですが、大人の女性の視聴者が多い印象があります。主人公がかっこいい男の子だったりすると、それをきっかけに作品を知り、YouTubeからコミックスへと興味を持ってくれるケースがあるんです。小学生男子向けのコロコロ本誌とは接点がない大人の女性にも「あ、これ面白いかも!」と手に取ってもらえる。それってすごく大きいなと感じています。

はい、90年代の第二次ミニ四駆ブームの時、主人公の星馬烈・豪兄弟に女性ファンがついたことがありました。『ブラックチャンネル』や『運命の巻戻士』にも、あのような広がり方の可能性を感じます。入り口を狭めないように。そのために、絵柄やデザインで障壁をつくらない工夫を意識しています。

ギャグや下ネタが強いと、どうしても大人、特に女性には届きにくい。というか、子どももそんなに好きじゃないのかも?…と思っています。だから、造形ではキャラの頭身を少し高めに設定したり、ビジュアル的に魅力のある要素を入れたり。YouTubeのように間口が広い場では、特にそういう“入りやすいデザイン”が必要なんだと思います。

2025年5月号から新連載がスタートした『我が1円くん』(作:てらちあ)は、大人も抵抗がないポップで可愛いデザインを目指しています。イメージとしては『ミニオンズ』のような雰囲気を目指しています。

ただ『コロコロ』の原点はあくまで子どもですから、大人のファンが増えたからといってそちらに移行するわけではありません。

そういう意味で、子どもにも見てもらえるのはもちろん、大人もファンになる作品を引き続き手がけていきたいです。

少子化、雑誌の影響力の現象で昔のようなヒットを見出しづらい環境です。でも、そのぶん、いろんな方向から“面白さ”を見つけるチャンスもあると思います。編集部では、それぞれの編集者の好みやアプローチが違うので、いかにもコロコロっぽい企画を推す編集者がいれば、僕のように少し外側から入っていくようなタイプもいる。そうやって自然にバリエーションが広がっていけばいいと思います。

てんとう虫コミックス
『ブラックチャンネル』
作/きさいちさとし

1~12巻発売中(以下続刊)
https://shogakukan-comic.jp/book?isbn=9784091432643

てんとう虫コミックス
『運命の巻戻士』
作/木村風太

1~9巻発売中(以下続刊)
https://shogakukan-comic.jp/book?isbn=9784091433992

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