誌面にギミックを取り入れて、タイアップにも活用していきたいです。『サライ』吉尾拓郎編集長インタビュー
2024/12/18
リニューアルでビジュアル表現をより美しく、上質さを加えた本へ
吉尾拓郎編集長は1999年に小学館入社。『女性セブン』に配属され、2年後、活字だけでなく写真も扱いたいと『CanCam』に異動、7年在籍。同誌が約30万部から75万部超に異例の部数増加した時代にあたり、ブームの作り方のようなものを体感。その後、男性誌をやりたいと『DIME』へ。2年後、入社当初からの志望だった『サライ』に配属になり7年在籍後、『BE-PAL』に異動。4年後、『サライ』に戻り、2024年10月、編集長に就任。
30代40代の読者が増えている「シニアに強いミドルエイジの雑誌」
1989年に「わが国初、大人の生活誌」として創刊し、2024年秋に35周年を迎えた『サライ』。この節目に誌面をリニューアルし、様々な新しい取り組みを始めています。
「まず読者層ですが、レンジをミドル方面に広げていきます。『サライ』はシニアの雑誌、というイメージで捉えられることが多かったんですが、読者アンケートのデータを見ると、ずっと読んでくださっている60代以上の方のほかに、30代40代の方がすごく増えてきていて読者層がダブルコアになっているんですね。私自身、中学生のときに当時40代前半だった父親が買ってきた『サライ』創刊号を読んで以来の読者で、必ずしもシニアの本じゃないよね、というのは自分の中に強くありました。
また、読者の女性比率も上がってきて、以前は3割を切るくらいだったのが、現在は4割に近づいています。ネットの影響が大きいと思うのですが、今の時代、趣味や嗜好に年齢差や性別がなくなり、世代で語れなくなっている。新生『サライ』は具体的に言うと、シニアに強いミドルエイジの雑誌、になると思うのですが、世代で括らないということも大事かなと考えています」
ネットの普及でタダの情報が溢れている時代。リニューアルのテーマの一つに「情報誌からアームチェアマガジン(肘掛け椅子に座って、じっくり読むような雑誌)への転換」を掲げています。
「読者がページを繰っているときに、その時間自体が『豊かだ』と感じられるような雑誌、所有すること自体が読者自身のステータスを上げるような本、を目指しています。そのために雑誌のビジュアル、佇まいをよりよいものにしていきたいと。また情報を吟味し、付加価値をつけて読者に提供する必要があるとも考えています。『サライ』の読者は文化を文化として理解することが楽しいというような、非常に知的好奇心が旺盛な方が多い。そうした読者に編集として表現したいのは、既存のことではなく、新しい『論』というのかな。
例えば、京都はいいですよ、というのは当たり前のことで、京都というのは何がいいのか、どういう切り口で見れば京都がわかるのかという、その推論みたいなものを立てて、取材でそれを証明する。読んだ方が、大学の講義を一定期間聞き終えた後にああそうだったのかと理解を得たような達成感を、本の中で味わっていただけると嬉しいですね。それはもちろん、大学の講義のような学問ではなく、エンタメという分野の中での話ですが。少々観念的になりますが、『人はどう生きるか』を読者とともに考え続ける雑誌でありたいと思っています」
今後はファッション関係や地方行政との協業にも力を入れていきたい
コンテンツとしては、これまで『サライ』が得意としてきた「旅」「食」「伝統文化」「鉄道」といった分野に加え、ファッションページを新設。タイアップにおいても、ファッションは注力していきたいものの一つとのこと。
「2025年4月号からファッションの連載を立ち上げます。『サライ』では何年もファッションページを取りやめていたのですが、自分としてはこれまでの経歴でファッションを担当した経験もあり、アパレルさんと協業したいという思いがありまして、連載でアパレルさんとの繋がりを深められればと。
またファッションページを作ることで、雑誌の佇まいをより美しくする効果も狙っています。男性ファッションだけでなく女性が登場する回があってもいいかなとは思っていますが、それは先々の話で、まずはミドルエイジ以上の男性衣料、中価格帯から高価格帯のものですね。すでにアパレルさんとのコラボ商品を出すなど、ファッションの企画は動いているんですが、今後はより一層力を入れていくつもりです」
『サライ』ならではのファッションの切り口も考えています。
「そのブランドの歴史というかバックボーンというのはすごく大事だと思うので、どういう経緯で生まれて、人々にどう愛されているのか。そういったブランドヒストリーのようなものを紐解くこともやっていきたいですね。おそらく読者にとっては、そのブランドの歴史の重みみたいなものを知りながら、それを身に纏うことに喜びがあると思いますし、そうしたことは私たちが表現したい本の佇まいというものと合ってくると思いますね」
そしてもう一つ、今後推し進めていきたいと考えているのが地方行政との協業です。
「私たちの得意分野である『食』や『旅』はローカルになっていくことが多く、特に『旅』はローカルにならざるを得ない。そう考えると地方行政と何か協業できるのではないかと。どういう形でやればお互いのメリットになるかというのは模索中ですが、2023年には焼酎の企画を立てました。焼酎は西の文化圏に多いんですが、ローカルに深く根付いた飲み物で、焼酎から地方を考えるようなことができるんじゃないかと企画して、いろんなところとお付き合いが始まりました。
焼酎というテーマは酒蔵さんだけでなく、地方行政ともお付き合いできるかなと思いますし、この先もまた焼酎や、もともと自分が得意で専門的に調べていた日本酒の特集を組もうかと考えています。そういった形で特集には、地方行政と付き合いができるようなものも取り入れていくつもりです」
地方の風土や文化と結びついた日本酒や焼酎、泡盛などの日本の「伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録され、「酒から地方を考える」ことはさらに注目を集めそうです。また2025年は離島の企画を立てており、すでに各所にアプローチしています。
「日本は世界でも有数の多島海の国で、いろんな島が寄り集まってできている。つまり日本というのは数多くのローカルが組み合わさってできた世界で、そのローカルを一つずつ知っていくことに知的好奇心をそそる喜びがある。私自身旅が好きで、ローカルな文化に触れることがすごく楽しく、その喜びというか高揚感が読者に伝わるといいなと思っています」
誌面にこれまでにないギミックを施して、インパクトのあるタイアップに
『BE-PAL』在籍中に様々なギミックの付録を考案し、ヒットさせた吉尾編集長。『サライ』の誌面にもいろいろなギミックを取り入れて、タイアップにも活用したいとのこと。
「例えば、3、4ページ分を折り込んだ引き出し付録みたいなのをたくさんつけたり、引き出し方を面白くしたり。読者にちょっとした驚きを提供したいですし、それをタイアップでやれば、かなりインパクトの大きいものになるんじゃないでしょうか。モノを作ったり、モノの構造を考えたりすることが好きなので、これまでになかったこと、少し冒険的なことも新しくやっていきたいなと思っています。
また企画書や提案書を作るのも好きですので、『こういう話があるんだけど、これで何かできる?』などとお声がけいただければ、喜んで企画を考えさせていただきます。内容でもビジュアル表現でも、新しい『サライ』の形をきちんと作っていきながら、いろいろなことに挑戦していきたいですね」
旅とお酒が大好きという吉尾編集長。地方への出張が楽しみで仕方なく、初めて訪れた土地の、知らない居酒屋に飛び込むことを考えただけでわくわくするそう。そこでその地の酒や食文化を知り、地域の人々と触れ合えるのも楽しく、旅は自分がそれまで知らなかったことにたくさん出会えるのが大きな喜びとのこと。また釣りが趣味で、山菜やきのこなどの自然の食材に詳しく、自分で調理することも好き。中学生の頃、料理人になりたいと思っていたこともあるそうです。旅や自然の中で英気を養い、発想の源泉を豊かにして、『サライ』の新しい試みに腕をふるう吉尾編集長の今後にどうぞご期待ください。
『サライ』の媒体資料ダウンロードはこちら: