『少年サンデー』気鋭の編集者が語るヒット漫画の舞台裏──小倉 功雅 最終回キャラクターを届け、そして守る IP時代に掲げる編集論

2025/08/25

『葬送のフリーレン』をはじめとするヒット作を担当する中で、小倉は「作品を広げていく責任」と「キャラクターを守る覚悟」を強く意識してきたという。IPとして認知を拡大する施策に積極的にコミットしつつ、作家が生み出したキャラクターを守るためには毅然とした姿勢も示す。「届ける」と「守る」の狭間で、作家・読者・編集部を考え、進んでいくために――個の編集者は何をなすべきか。最終回では、編集者としての現場観と、今後のIP展開や担当作への思いを通して、小倉が考える現代の編集者像を掘り下げていく。

連載第1回はこちら

届けて、広げる──メディアミックスおける編集者とは

広告やタイアップ、コラボといった展開には、基本的に前向きに取り組んでいます。『フリーレン』に関しても、アニメ化前に実施したタイアップ施策が、作品をより多くの人に知っていただくきっかけになりました。あのような企画に『フリーレン』を選んでいただけたことは、本当にありがたかったです。どれだけ面白い作品でも、“知られなければ”読まれない。認知を広げることは、作品や作家さんにとっても非常に重要だと思っています。

作品の世界観をそのまま表現するようなプロモーションができたことは、届け方の選択肢が広がったという意味でも、とても意義深かったと感じています。編集者という立場から、今後も自由な発想で届け方を探っていければと思います。

『フリーレン』の1話~5話を縦読みで楽しめる特設サイト「覚醒のメロディー」を公開。企画・制作は面白法人カヤック。

作品やキャラクターが傷つくことなく、作家さんが許容する「面白い」の範疇ならこだわりはありません。『フリーレン』も、2023年にTVアニメ第1期が放送、2026年1月からは第2期の放送が決定しています。そこでは、アニメ製作委員会の関係各社の皆様、社内の販売や宣伝、クロスメディアの部局のみなさんに頼らせていただきました。各領域のプロフェッショナルの力を借りてなし得たことです。

第2期ティザーPVも公開中。
© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

編集者という立場は、常に雑誌、作家さん、読者という三者の間に立つものです。作家さんファーストは当然のこととしても、時には雑誌の事情を優先しなければならないこともあるし、読者に寄り添うべきタイミングもある。だからこそそのバランスを冷静に俯瞰して、最も良い選択を見極める──そこに編集者としての役割があると思っています。

今、あらためて考えたい。届け方の進化

絶対に譲れない一線、というのはあります。それは、キャラクターを歪めることです。キャラクターはその作品の核であり、作家さんが命を吹き込んだ存在。それを歪曲してしまっては、作家さんが傷つくだけでなく、長くそのキャラを愛してきた読者も裏切ることになります。

作品を広げることと、守ること──そのバランスをどう保つかが、編集者の重要な役割だと考えています。だからこそ、原作を広げられるのであればできる限りで推進しますし、「これは違う」と思えば、しっかりと立ち止まって伝える。その軸を見失わないようにしたいです。「正当なかたちで世に出せない」と感じたときには、進んでいるプロジェクトでも、立ち止まって再考を提案するときがあるかな…と思います。

作品の本質がどこにあるのか、誰の表現なのか──その核を守るための判断だけは、冷静に下さなければいけない。そこに、編集者という仕事の重みがあると感じます。

ユニバーサルデザインという考えがありますよね。もともと「できるだけ多くの人が使いやすいようにデザインする」という考え方です。それを出版に置き換え、僕は「誰が見ても納得できる共通知」を常にベースにして判断したいと思っています…わかりづらいですね(笑)。「みんなが納得できる正当性のある判断」という感覚?かもしれません。

これは作家さんに対しても同様です。たとえば、ある作家さんがとても面白いと思うテーマを持ち込んでくれたとしても、それがモラルや公序良俗に触れるような内容であれば、そのままでは出せません。もちろん、テーマや描き方によっては成立するかもしれませんし、そういった作品も存在はします。ただし、読者の拒否感や反発を生んでしまうなら、慎重に設計するべきだと思います。

そうした場面では、ただ単純にNGを出すだけではダメで、「なぜ難しいのか」「どうすれば受け入れられるか」を丁寧に説明できなければなりません。それは、相手が作家さんであっても、外部パートナーであっても同様です。編集者は調整役であると同時に、作品の価値と信頼を背負って判断を下す立場にあるべきだと考えています。

個と船のあいだで──編集部の現場から

僕はたまたま入社以来ずっとサンデー編集部に在籍していますが、異動について、出たいとも残りたいとも言ったことはありません(笑)。正直、大層なことはあまり考えていなくて、ただ「目の前の仕事を丁寧に、一生懸命やる」、という気持ちで単純に働いてきました。

『少年サンデー』に長く関わるなかで、自分の担当作だけでなく、他の編集者や新人作家さんが、本気で作品を世に届けようとする姿をたくさん見てきました。それは本当に悲喜こもごも。新連載が決まり、目を血走らせながら働く先輩もいれば、アンケート結果に打ちひしがれている後輩もいました。僕自身も経験がありますし、それはきっと、創刊された1959年から変わらない風景なのだと思います。

2024年創刊65周年を迎えた『週刊少年サンデー』。

ひたむきに伝える努力を重ねる編集者の同僚たちの姿を間近で見てきたから、「サンデーの作品がもっと多くの人に届いてほしい」と心から思っています。そのために、自分にできることをやっていきたい。今の立場でも、それがいちばんしっくりきています。

編集部は、ある種“船”のようなものだと思っています。『週刊少年サンデー』という船がどこへ向かうのか、ブランドをどう守り、どう広げるのか──それを決めるのは“船長”である編集長の仕事です。でも、その船の中で、一人ひとりの乗組員が安心して仕事に向き合えるようにケアをするのは、その下にいる副編集長の役割だと考えています。僕は、自分の持ち場で具体的な仕事に向き合いながら、できることを一つずつ積み重ねていきたいと思っています。

僕個人としては、『フリーレン』アニメ第2期をすごく楽しみにしています。サンデー本誌では『フリーレン』だけでなく、担当中の『廻天のアルバス』(作/牧 彰久 画/箭坪 幹)と『ストランド』(作/NUMBER 8 画/益子リョウヘイ)という作品の編集者仕事も頑張っています。

左/廻天のアルバス 右/ストランド

『廻天のアルバス』は、勇者と魔王が存在する異世界のタイムループ作品です。一度読んだあとにまた1巻から読み返したくなる、“再読の快感”がある作品です。『ストランド』は、電気が失われてしまった世界の退廃的なかっこよさを描いた、少年漫画としてはやや異色な作品。少年誌の中でチャレンジングな位置づけにはなるかもしれませんが、だからこそ新しい読者層に刺さる可能性もあると信じています。

最近、編集部の後輩たちが「少年サンデーのフキダシ」というポッドキャスト番組を始めました。編集者が前面に出て、編集部の中の目線を語っている内容です。今の時代、YouTubeやSNSで作家さんが自分の作品について話す機会は増えてきていますが、編集者側の声が直接届けられる場は、まだ限られているのが現状です。

そういう意味で「サンデー編集部から編集者の言葉を発信する」というのは、とても面白いチャレンジだと思っています。今後のサンデー編集部に、ぜひご期待ください!!

少年サンデーコミックス
『名探偵コナン』
作/青山剛昌

1~107巻発売中(以下続刊)
https://shogakukan-comic.jp/book?isbn=9784091233714

少年サンデーコミックス
『古見さんは、コミュ症です。』
作/オダトモヒト

全37巻発売中(完結)
https://shogakukan-comic.jp/book?isbn=9784091273437

少年サンデーコミックス
『葬送のフリーレン』
作/山田鐘人 画/アベツカサ 

1~14巻発売中(以下続刊)
https://shogakukan-comic.jp/book?isbn=9784098501809

少年サンデーコミックス
『廻天のアルバス』
作/牧 彰久 画/箭坪 幹 

1~5巻発売中(以下続刊)
https://shogakukan-comic.jp/book?isbn=9784098535774

少年サンデーコミックス
『ストランド』
作/NUMBER8 画/益子リョウヘイ

1~4巻発売中(以下続刊)
https://shogakukan-comic.jp/book?isbn=9784098538171

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