メディアがコミュニティになり、ハイティーンと共創し新たな価値観を創出します。『Steenz』渡邊景亮編集長インタビュー
2024/02/09
次世代のステークホルダーと企業をつなぎ、世の中に訴求するコンテンツを創ります
リクルートのR&D部門「Media Technology Labs(メディアテクノロジーラボ)」でICTを活用した新規事業を手がけたのち、小学館へ転職。ライフスタイル誌のWEBサイト・マンガアプリのグロース担当者を経て、児童・学習のデジタル担当を担いながら、2021年、10代向けのメディア&コミュニティ『Steenz』を立ち上げた。
多様性が当たり前のティーンの感性と大人もつながれるメディア
小学館での新たな試みになるメディア『Steenz』ですが、コアターゲットを教えてください。
「15歳以上のハイティーンがターゲットです。その中でも〝自分が創ってきたもの、やってきたこと〟によって自分の名を挙げたい、または、いつか〝何かを創りたい、行動したい〟志を内包しているハイティーンですね」
従来のティーン向けと異なる点はどのようなことでしょうか。
「内面を取り上げていることです。これまでメディアが光を当てていたのは、ギャル文化を背景にした強力なコミュニティや、コンカフェ(コンセプトカフェ)、地下アイドルなどオタクを背景としたコミュニティでしたが、彼らも含めて、お互いの価値観を認め合う多様性の時代に変わった今、より内面を表現することに重要性が移り変わったのではないかと。そこで、例えば私たちのライフワークである『気になる10代名鑑』というスナップ企画では、登場するティーンを丁寧に取材して考えを掘り下げ、従来のファッションスナップ企画とは異なる価値を表現しています」
インタビューに取り上げる、または、登場するティーンを選ぶ基準を教えてください。
「自分なりに、今取り組むべきことを選択して、実際に行動に移せていることですね。彼らは、進化が激しい時代に勇気をもって世の中に何か残そうと躍動している若者です」
そんな彼らには、どのような特徴がありますか。
「多様性の時代の若者らしく、趣味が異なっても推しが違っても相手の考えを認められて、自分の価値観や感覚をもって発信したいと思っていることですね」
国際色豊かな「Steenz Breaking News」は、サステナブル関連の記事が多い印象です。
「社会問題を含むサステナブルなニュースは多様性の時代を生きる若者に届けるという側面もありますが、思想の偏りの強い記事が少なくフラットなこともあり、検索や配信流入が多いコンテンツです。実は、2023年に一番読まれた記事は『Steenz Breaking News』のアフリカのセックスツーリズム。現地に滞在中で、『気になる10代名鑑』で以前取材した現在20歳のライターが書いた記事です。若い感覚で書かれた記事が多くの日本の大人に気づきを与えられたことは、まさに『Steenz』の生み出せた一つの価値だと思っています」
10代による問題意識の視点や提起をコンテンツの主力にしていくのでしょうか。
「いわゆるSDGs的なことについては今後もやっていきたいと思っていますが、もちろんそれだけではありません。この先の新しい世の中のためになる、次の世の中がもっとよくなることをやっていこう! と考えているティーンを応援するスタンスです。それに、ファッションやエンターテインメント、カルチャーなどの情報についてもフィルターバブルの外にある興味喚起をしながら、時代に敏感な若者のクリエイションやアクションのハブになりたいと思っています」
企業とティーンで〝一緒に考える〟ことで、若者の未来を創る
メディアとして必要となる、広告やタイアップで想定していることはありますか。
「タイアップに関しては、発信というよりは、『Steenz』のコミュニティと一緒に何かしませんか? という、共創するプロジェクトとしての提案になります。コミュニティには、特に今の時代を象徴するような若者が多く、企業の培ってきたアセットとコラボレーションできれば、その企業アセットを次の時代に接続していくことができるのではないでしょうか。そして、コラボレーションによって、企業と若者が収益を生み出しながら、新しい商品やコンテンツを生み出し、共に成長しながら世の中を動かしていくという持続可能なエコシステムをつくり上げられれば、きっと世の中が良くなると考えています」
では、どのような業種とコラボしていきたいと思っているのでしょうか。
「業種は問いません。お悩みをご相談いただければ、お話を伺いながら課題設計から、それを若者と一緒に考えるためのご提案をさせていただきます。例えば、食品メーカーでサステナブルな経営に課題があれば、食品ロスを真剣に考えている10代インタビューのご提案をさせていただきますし、レコード会社とも音楽や映像の若者クリエイターとのコラボが生まれています」
企業次第の側面が強そうですが、具体的に想定できる起用方法はありますか。
「すでにご相談いただいて動いている件でいえば、社内のインナーコミュニケーションでの活用があります。サステナビリティに関する社内の啓蒙のため、次世代のステークホルダーと一緒にイントラに載せる動画や社内イベントなどのコンテンツを一緒に考えようという。あるいは、クリエイティブな面でも、エンタメ企業さまと今の感覚や価値観を世の中に還元するコンテンツの共同開発をしています。あるいは、シンプルなグルインのような活用もあったりします」
クライアントワークで10代が稼働する場合、責任感の有無が問題になる場合も多いです。編集部としてのフォロー体制はいかがでしょうか。
「そもそもプロ意識の高い子が多いのですが、それでも、我々がプロマネとして間に入りながらプロジェクトは進行します。企業にはひとりのクリエイターとして見ていただきたいものの、もちろん、『Steenz』のコミュニティにつながっている若者は、まだ〝小さいプロ〟。頑張っている彼らが実績を残すため、本物のプロの打席の一打目を作り応援するのが僕らの仕事のひとつなので、注意深くマネジメントを行っています。経験の浅い彼らに、世の中というものを翻訳すると同時に、彼らの感性を企業に翻訳しながら、アウトプットするのが私たちの役割だと考えています」
今後も10代の感性や感覚を企業に提供することになりますか。
「はい、これまで通りに『Steenz』を通して、若い世代と企業をつなぐことを拡大していきます。ほかには、『Steenz』コミュニティによるクリエイティブな活動に力を入れていて、例えばショート動画に力を入れていたり、クリエイターの創作活動のサポートをコミュニティとして行っていたりしているところです。あるいは、手がけてきた映画プロジェクトである『私の卒業』も第5期になりました。あるいは、インフルエンサー系の事務所とショートドラマを制作したり、これまで培った若者の感性を活用して大学の入学パンフレットの制作を行っていたりもします。ただ、シンプルに〝一緒に創る〟ことは変わりません。ティーンと共に、企業と、事業やコンテンツを共に創り上げていきます」
物心がついた頃にはすでにiPhoneが発売されていた世代だけに、発展し続けるテクノロジーや変化の絶えない社会も当たり前のこと。起業家、映像制作や音楽、芸術などの表現者、ボランティアやNPO活動家など、クリエイティブな感覚や社会へのアンテナ感度も高いティーンが集う『Steenz』と企業の次世代に向けた取り組みは、今後さらに飛躍しそうです。