自分の手で組み立てる紙工作のコラボ付録は、子どもの心に深く刻まれます。『幼稚園』中門恭子編集長インタビュー

2024/06/25

紙の雑誌をめくって読むのは子どもの成長に役立つということを伝えていきたい

中門恭子編集長は1995年、小学館に入社。TV雑誌『TeLePAL』に配属され5年在籍後、2000年、『幼稚園』編集部に異動。その後、2007年に『めばえ』、2016年に『ぷっちぐみ』、2019年に『小学一年生』へ。2022年、再び『幼稚園』に戻り、2023年、編集長に就任。

読者の親御さんは、子どもと一緒に付録を作る時間を大切にされている

「『幼稚園』の付録は昔ながらの紙の組み立てがメインです。子ども一人では組み立てられず、保護者の方と一緒に作ることを前提としていますが、皆さん仕事や家事でお忙しい中、子どものために付録を作る時間や労力を惜しまないというか、むしろそれを育児の楽しみとして捉えている方が『幼稚園』を買ってくださっているように思います。

毎号のアンケートには、難しかった、作るのに時間がかかったなど、少し辛口のご意見もありますが、それ以上に、作って楽しかった、達成感があった、子どもが喜んでくれたのでがんばってよかったといった声が多く、親子で付録を作る時間を大切にしていたり、本誌を読むときも子どもに質問されたりするのを嬉しく感じている方が多いという印象です」

「今は年長くらいになると、自分で動画を見たりゲームをしたり、一人遊びの時間が増えてくると思うんです。小学生になればもっとそうなるので、親御さんには『子どもと一緒に遊べるのは今だけかも』という気持ちがあるのかもしれません。せっかくの時期だからと、付録を媒体に親子のコミュニケーションの時間をつくっているのかなとも思います」

「NTT東日本さんとのコラボは今回が2回目で、初回共々メディアからの取材も多く、大いに注目されました。また東芝テックさんのセルフレジも2回付録になっていて、2度目は商品をカゴに入れながらスキャンするセルフレジカートにしました。コロナ禍で急速に広まったセルフレジは、子どもにとっても身近かつ自分でやってみたいことの一つで、すごく反響が大きかったです。セブン銀行さんのATM付録もそうですが、子どもには大人がしていることを自分もやりたいという気持ちが強いようですね」

本誌の特集記事とのセットで、社会への子どもの興味や関心を広げる

「例えばセルフレジならスーパーでの買い物の流れを見せたり、公衆電話だったら使い方や緊急の110番や119番について紹介したり、必ず特集を組んでいます。きちんと取材をして、子どもにわかりやすいビジュアルやテキストの工夫はかなりこだわっていますね。親御さんも意外に知らなかったということがあり、大人にとっても読み物としておもしろいと言ってくださる方が多いです。

子どもは4~6歳くらいから社会に目が向くようになり、世の中にはどんな仕事をしている人がいて、みんなで支えあって自分たちが生活できているんだということを徐々に知っていくと言われます。外に向かって興味・関心が広がっていく世代なので、そういう意味でも企業コラボ付録は読者層に合っていると思います」

「公衆電話付録の取材でよく聞かれたのが、『今は公衆電話が減っているし、4、5歳の子が公衆電話を使うことってないですよね?』ということです。確かにそうかもしれません。でも子どもが成長して、いつか使うときが来るかもしれない。もしかしたら災害時に使うかもしれません。そのときに記憶をたどって、ああ、そういえば付録で遊んだなと使い方などを思い出してもらえればいい、というのがNTT東日本さんの思いでもあったんです。セルフレジやATMもいつか使うことがあるだろうから、ということですね」

「編集部に直接電話がかかってくることも増えました。あと私たちも常日頃から付録の企画書を作って、いろんな企業さんに働きかけているんですけど、以前はこちらの意図が伝わりにくく、『何を言ってるんだろう、この人は』みたいな対応だったのが(笑)、最近は通りがよくなりました。それで製品やサービスの特徴を詳しくお聞きしたり、こういうところにリーチしたいんだけど、どうしたらいいんでしょうかねと、逆に相談されたりすることも。付録として実現しなくても、様々なジャンルの企業さんと話をしてアイデアを出し合うのは、私自身楽しいですし、意義があると思っています」

「今は100円ショップなどでもよくできたおもちゃが買えます。雑誌の付録はそれとは差別化したいなと思っていて、何が一番の違いかと考えると、紙で組み立てたり自分で手を加えて作ったものはそれだけ思い入れが強くて、より大切に使ったり遊んだりするし、記憶に残りやすい。そこに企業さんのブランドや製品が加わることで、一層子どもの心に刻まれるんじゃないかと思うんです。なので、長い目で子どもたちにプロモーションをしたい企業さんには、ぜひ『幼稚園』の付録を選択肢の一つとして考えていただければうれしいです。

ご相談いただければ、『音声を流しましょう』とか『紙以外にこんな素材を使いましょう』などのアイデアを出しますし、意外なものが人気付録になるかもしれません。今は様々なところから情報が得られますが、その中でもターゲットの子どもたちにしっかり届くと思いますし、親御さんは自分の子どもが楽しそうにしていることが何よりの喜びなので、親御さんの印象にも残る。かなり効果的なプロモーションができると思います」

企業の狙いと、子どもが喜ぶ遊びをどう擦り合わせるかが重要

「公衆電話や自動改札機もそうですが、通信や交通、医療といったジャンルで付録にできるものがまだまだありそうだと思っています。一見、地味な存在であっても、特集記事とのセットで子ども心にすごく刺さる企画になりそうなものをいろいろ考えています。交通系では2024年の8・9月号にスカイマークさんとのコラボで飛行機の付録がつくんですが、当初は飛行機をどう飛ばすかということばかり考えていたんですよね。でも先方と打ち合わせを重ね、現場を見せてもらう中で、パイロットやCA以外にたくさんの職種があり、それぞれこだわりがあり、これはおもしろいなと思って。そこで、飛行機を安全に飛ばすためにいろんな人が陰で支えていますっていう、飛行機や空港の仕事をする人たちに注目した付録にシフトチェンジしました」

「私たちはこれまでの経験で、4〜6歳くらいの子どもがどういう遊びを楽しいと思うか、何に集中して遊ぶかといったポイントがわかっているので、それと企業さんの、こういうことを紹介したいとか、こういう狙いで付録をつけたいといった要望を擦り合わせていきます。ダミーを作って、遊びにくそうなところや難しいところを手直しして、少しずつ付録の完成形に近づけていく感じですね。そのために企業さんとは何度もやりとりします」

「キャッシュレス決済が増える中、逆に、子どもへのお金教育というものが大事だと思っているんです。現金を持たない、目にしないことで、お金という概念が薄れてしまう。今の子どもにはお金の種類や『お釣り』もわかりにくくなっているようで、このままではお金の感覚、価値観みたいなのが危うい状態になるのではと。そこでお金ってなんだろうとか、貯金や運用について子どもにもわかりやすく紹介したり、お買い物をしながらゴールを目指すボードゲームにしたりして、何かを買うときにはお金が必要なんだということを理解してもらう。その際には銀行さんや決済アプリの企業さんと組めたらいいなと思っています」

「紙には平面から立体の大きなものを作れる驚きと楽しさがあり、紙を立体的に組み立てることは、じつは日本人のモノづくりの原点だったりするんじゃないかなと思うんです。単純に手先が器用になりますし、脳が刺激されるとも思います。ですので、手を使って工作することは子どもの教育にすごくいいですよ、と。『食育』のように、『紙育』みたいな感じで(笑)、紙の付録を作ったり、紙の雑誌をめくって読むのは、子どもの学びと成長に役立つということをしっかり伝えていきたいですね」

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