作品の世界観をよりよく展開することに興味を持ってくださるクライアントさんとはどんどんスクラムを組んでいきたいです。
『ゲッサン』袖崎友和編集長インタビュー

2024/02/26

マンガ家と読者の間の心地よい空間を作りながら、少年マンガ誌の幅を広げていきたい

袖崎友和編集長は1998年、小学館に入社。『週刊ヤングサンデー』に配属され、2004年、『週刊少年サンデー』に異動。『MAJOR』(作/満田拓也)シリーズなど、数多くの作品を担当し、2022年秋から『月刊少年サンデー』(以下、『ゲッサン』とする)に異動、2023年10月より『ゲッサン』編集長に就任。

サンデーブランドという大黒柱を大事にしながら質の高いマンガ誌に成長

「編集長になったのだからすべてを劇的に自分の色に染めてやるぜ、みたいな意気込みは全くありません(笑)。もともと、ひとりの読者として『ゲッサン』のページを開いていた者からすると、このマンガ誌はとても心地よい雑誌だという印象が強いんです。それは私だけが感じていたことではなくて、編集長としてほぼすべての先生方とお会いした時に、みなさん異口同音に〝ゲッサンの雰囲気っていいよね、楽しいよね〟と言ってくださったんです。ですから、何かを変革するよりも、いかにこの心地よい『ゲッサン』の空間をキープできるかにまずは心を尽くすべきだと思いました。

最近はデジタルでの配信が注目されています。そういう状況で紙のマンガ誌はなかなか厳しかったりするんですが、描き続けてくださっている先生方、また、『ゲッサン』に描きたいと願っている先生方がいらっしゃる。そして、先生方の作品を待ってくださっている読者のみなさんがいる。そういった多くの読者の方々に、しっかりと『ゲッサン』が醸し出す心地よい空間を届けられるようにしたいな、と考えています。

もちろん、心地よいイコール現状維持という意味ではありません。『ゲッサン』は『月刊少年サンデー』なので、『少年サンデー』を愛読している、愛読していた人たちが手に取ってくださるマンガ誌だと思っていますし、そのサンデーブランドという大黒柱を大事にしながら、『少年サンデー』とは遠いところにいた先生たちにも存在感を示していただき、質の高いハイブリッドなマンガ誌に成長していきたいと思っています。

また、『今日のさんぽんた』(作/田岡りき)など、SNSで話題になり連載化した作品も多くあり、実は『ゲッサン』ってSNS発信の作品とも親和性が高いマンガ誌なのではないかと考えています。それをきっかけとして、普段は紙のマンガ誌を読んでいないけど、手にしてみるのも悪くないかなと思わせる誌面作りも心掛けたい。そういった希望も含め、これからも心地よい空間を作り上げつつ、先生方ひとりひとりが大暴れできる場であり続けたいです」

「いわゆる『少年サンデー』を好きな人が基本にいます。その『少年サンデー』に限らず、もっと少年マンガ誌を読みたい、少年マンガ誌のテイストが好きだという成人男性の方がメインです。ただ、そうはいっても、僕らは一般的な大人に向けて作っているイメージはなく、あくまでも中学生、高校生の感性が好きな人、つまり、少年マンガ誌が好きな大人に対して作っている意識が強いです。

そういう意味では、もっと少年マンガ誌の幅を広げてもよいのではないかと思っています。考えてみれば、少年マンガ誌の幅って、あるようでないんですよね。昔と違い、Webも含めたら多肢にわたって様々な媒体がありますし、そこで視野を広くしてみると、こういった方向性の作品も少年マンガ誌の中に括ってもいいんじゃないかと思うこともありますし。これからは、そういった作品なども少年誌マンガ誌のカテゴリーの中に入ると思うよ、どうです、いいでしょ? って読者のみなさんに提案していきたいですね」

「これまでにシャチにこだわった作品はなかったんですよね。遊維先生が海に興味があり、担当編集者もシャチに詳しいところもあって、それが先々、刺激的な化学変化が起きそうだと思っています。なにより遊維先生は若いので、さきほども言いましたが、この心地よい空間で思いっきり暴れてほしいです」

「連載を始める基準は、似たような作品がないこと。それがとても重要だと思っています。会議でも、これは他のマンガ誌にはないよねって言える作品を企画してほしいと伝えています。また、違うアプローチの仕方もあります。例えば、異世界転生を描いた作品が多いんですが、それを十分に承知した上で、あえてその方向性をひねり、新しい展開を繰り広げてみたいと企画された作品にはトライしてみるとか。

それと大切なのは、現場の編集者が面白がっているかどうか。編集者と漫画家が熱く語り合えて、その勢いが僕らを巻き込んでくる。そういう作品が飛び出してくるのを心待ちしています」

作品の舞台となっている場所に足を運べてハッピーになれるタイアップ

「5月に実写版が劇場公開される『からかい上手の高木さん』(作/山本崇一朗)の最終回が掲載された昨年の11月号が、おかげさまで完売したんです。でも、増刷ができず、読者から〝高木さんの最終回が載っている11月号が買えなかった〟という声が多く寄せられまして。そういった声に少しでも応えようと、最終話が収録されるコミックスの発売時期に合わせて、本誌で高木さんのイラストをデザインしたブックカバーを付録にしたら、読者が喜んでくださるのではないかと思ったんです。

結果は上々で、評判は非常によかったです。以来、連載作品のコミックスの発売時期にタイミングを見て試みています。本誌の連載を読まずにコミックス単体だけを楽しんでいる方もいらっしゃる。そういった人たちに、その作品のオリジナルコミックスカバーを付録にすることで『ゲッサン』を手に取ってもらい、ひいては他の作品にも興味をもっていただける、ひとつのきっかけになればとも思っています」

「高木さんに関心を寄せてくれているクライアントさんと一緒に、企画が合えば永野芽郁さんにもご協力いただいて、コミックスカバーはもちろん、それ以外にもワクワクできる展開を作り上げることができたらいいですね。十分に検討の価値があると思います。

すでに、映画の舞台になっている瀬戸内海の小豆島でタイアップのイベントが行われています。高木さんがラッピングされたタクシーを走らせたり、学校の教室を再現したり。そういったタイアップの流れは今後も広げていきたいですし、大事にしていきたいと思っています。新連載の『大海に響くコール』を例にすると、シャチ好きな人が集まれる聖地のような場所が作れたらいいですよね。野生のシャチが見られる羅臼や水族館がある鴨川でそんな場所を築けたら面白そうじゃないですか。

『ゲッサン』には、主人公たちが活躍する場所や空間が物語の重要なポイントとなっている作品が多いんです。『これ描いて死ね』(作/とよ田みのる)の舞台は伊豆七島ですし。作品で描かれている場所ごとに自治体やクライアントさんとタイアップが行なえると、町おこしになるかもしれませんし、作品自体もより深みを増し、読者は実際に足を運ぶことでリアルに作品の世界に入っていける。そのような相乗効果は誰もがハッピーになれると思うんです。これからも作品の世界観を実在の場所でよりよく共創することに興味を持ってくださる自治体やクライアントさんとは、どんどんスクラムを組んでいきたいですね」

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